本日のテーマ
東京国立博物館
法隆寺宝物館
現 在、東京国立博物館の平成館では「東大寺大仏ー天平の至宝ー」が開催されており(12月12日まで)、私が訪れたのは休日ということもあいまって上野は公 園から博物館にかけて多くの人々でにぎわっていた。国立博物館の敷地内に入ってみると、本館や平成館には多くの来場者が集まっているようだが、法隆寺宝物 館に向かう人影は休日の昼間であるのにごくまばらである。多くの人は平成館や本館の目玉の企画展を目当てであって、常設である法隆寺宝物館は素通りすると いうのが大方であろう。芸大に通っていた知人に聞いても「(宝物館で)お茶はするけど展示は見た事がない」とのことであった。確かに知名度はそこまで高く なく、敢えて注目する人は少ないかもしれない。
しかし、素通りしてしまうにはあまりに勿体ない建築である。
ま ずはガラスを基調としたポストモダンの建築の外観の装いに目がいく。「法隆寺宝物館」という名称からくる古風で荘重な響きとの乖離に新鮮な印象をうける。 設計したのは慶應のOBでもある谷口吉生である。噴水の脇を通る水上の道からエントランスに導かれるときも、訪問者の心持ちを洗い流してくれるような機能 を有している。
エントランスホールは、ガラス張りのため光が差し込み明るく開放的である。
地上階から展示室は始まるのだが、高機能そうな自動ドアが開き訪問者を展示室へと迎え入れる。自動ドアが閉まり完全に室内に入ると外の音 声は驚くほど遮断され、外との密閉性が非常に高いことが伝わる。実際、展示室自体さらに一枚石の外壁を隔てられ外気の影響から完全に守られているいるよう だ。さらに展示室内は一転してかなり照明が弱く設定されており目が慣れるのに時間がかかる程暗いのだ。その中で適度に作品に照明が当てられている。開放的 な「外」に対して暗い静かな「内奥」という対比が連想された。
もちろん、照明が暗くされているのは第一義として作品保護の観点からであろう。ここに収蔵される献納宝物はもろく保存の難しい作品が多いため、温湿度管理は言うまでもなく、外気との隔絶と照明の繊細な調節が不可欠なのである。
そして最も面積のある第二室には、小型の金銅物がかなり斬新な方法で展示されている。金銅物が一体ずつ方形のガラスケースの中に安置され、部屋中に等間隔に縦横に並べられているのだ。
こ こでもガラスケースに入れるということで、一体ずつ最適な環境で保存するということを実現しているが、美的側面を高める働きも多いにある。ガラスケースの 中で輝く仏像の姿はまた格別であり、それらが並べられるとまるで部屋全体が作品であるかのような印象をうけた。この中を縫って歩くとまるで仏の織りなす小 宇宙のような世界の中にいるようである。
その他の展示室でも同様に、暗い静かな室内に献納宝物がガラスケースの中に収められ最低限の照明によって照らされている。
つまり、このようなことが言える。
作品は暗い保管庫で「保存」されるのとほぼ同じ環境の下で「展示」されている。
しかもこの保存機能を優先した環境は、美的側面を損ねるのではなく、作品の持つ美を十二分に引き出す「展示」を達成している。
「保存」機能と「展示」機能がただ共存するだけではなく、組み合わさってより優れた機能を創出しているのだ。
そういった意味でこの建築は実に優れている。
難点を挙げるとすれば、「知的好奇心を満たす場」としてはそぐわないことである。つまり、室内が暗いのでゆっくり解説を読みながら鑑賞し作品に関する知識を深めるということに適していないのである。この施設は純粋に「美的体験の場」に適していると言える。
し かし実はこの難点も、中二階に位置する資料室によって補完されている。法隆寺の宝物に関するデータベースを完備し豊富な文献も閲覧可能である。この資料室 は充分に面積もあり座り心地の良い椅子が多くありくつろぎながら知的好奇心を満たすことができる。子供が熱心に勉強する姿も見られた。
(資料室)
法隆寺宝物館というやや特殊な目的のものであれど、ミュージアム建築としての機能の理想型を示す建築なのではないだろうか。
これからも国立博物館を訪れる際にはここに立ち寄って「お茶」でも休憩でもしたい、と思わせるお気に入りの場所だ。
(いつもと文体が違うのはぼくが提出する文章の一部転用のためです笑)
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